2023-08-27
インド人エンジニア採用でどう変わった?DG TAKANO高野氏に聞く、プロダクト開発の舞台裏
海外人材を採用したいと思っていても、そのメリットや実際のワークフローが想像しにくく、なかなか踏み切れないというお悩みをよく伺います。すでに海外人材を雇用している企業では、どのようにして受け入れ、どんな効果を出しているのか?
今回は、最大95%の節水率を誇る超節水ノズルや、「水ですすぐだけで油汚れも細菌も落とせる食器」などの革新的なプロダクトを生み出すDG TAKANO社長、高野雅彰氏にお話を伺います。
DG TAKANOが生み出すグローバルな課題を解決するプロダクトは、国内の大企業のみならず、海外からも注目を浴びています。そんなプロダクトを生み出す舞台裏には、インド人エンジニアの存在があったそう。インド人エンジニアの採用で、DG TAKANOにはどのような変化があったのか。採用のきっかけや雇用後の実情について、弊社代表の西山が聞きました。
西山:本日はよろしくお願いします。最初に、DG TAKANOについて簡単にご紹介ください。
高野:DG TAKANOは元々、私の父が経営していた東大阪の町工場の技術を受け継いで立ち上げたスタートアップです。父の代では、業務用ガスコンロの部品を作っていました。私はその事業ではなく、機械と技術を受け継いで今の時代に合ったものを作っていこうと考えました。そしてできたのが、最大95%の節水率を誇る超節水ノズル「Bubble90」です。現在、国内の大手レストランやスーパーで数多く導入いただき、節水に貢献しています。最近では、油汚れが水だけで落とせるお皿を開発しました。一般消費者向けに販売を始めています。
西山:ありがとうございます。海外人材の採用というと、リソースがある大企業、中でもそIT関係の企業のみが行っている、といったイメージが強いのではないかと思います。しかし、東大阪の工場からスタートした高野さんが実際採用されている。初めに、そもそもなぜインドの方を採用しようと思ったのですか?
高野:まず起業した当時から、外国人は採用しようと思っていました。Bubble90は、世界の水問題を解決したいと作り始めた製品だからです。日本ではなく世界がマーケットだったので、それに対応した人材を採用していくべきだと考えていました。ビジョンに共感してくれる人はどの国籍だろうと採用しようと門戸を広げていたのです。その中に、インド工科大学(IIT)の人材という選択肢もありました。採用してみると能力がぶっ飛んでいたので、どうやってIITからより優秀な方を採用するか、戦略的に取り組んでいます。2019年から採用イベントに参加するようになり、現在は新卒だと日本人より多い人数をIITから採用しています。
西山:IITはインドに23校ある理系のトップ大学で、毎年100~200万人受けて1万人しか受からない狭き門と言われていますよね。卒業生がGoogleのCEOやインドのユニコーン企業の創業者になっていて、世界から注目されています。彼らは何がそんなに優秀なのでしょうか。
高野:年齢的には20代前半なのに、異なるいくつかの分野で深い知見を持っているんです。例えば化学的な知識や経験がありながら、ロボットにも精通していて、プログラミングも書ける。そこまでの知見を得るのは一つの分野でも難しいのに、小学生が大学受験するくらいのスピード感で学んできた人たちですよ。なんでこんなことができるのか聞くと、「専攻はこの分野だけど、今は興味があってこういう分野を勉強しています」と返ってきました。すごいですよね。彼らの知りたいという探究心、学びたいという強い意欲が能力につながっているのだと思います。
異なる複数の分野の能力を一人が持っていると、とても強いんです。だからこそ出せる発想があるというか。例えば先日、アメリカのある特許技術を持った企業と組んで、研究開発をしようとしていたんです。すると、その担当につけたIIT卒の新入社員が、「この会社と組む必要はないです」と。「自分がもっと効率の良いやり方を見つけたので、この特許を使う必要がないです。それより、こういう特許をとったほうが強いと思います」と言ってきたんです。その分野の専門ではなかったのに、すでに国内の専門家よりも高い知見を持っていました。
高野:一つの分野を極める人が多い中で、いくつかの分野で80%くらいまで知見を持っていると、そういう人にしかできない解決策が見つかるんですよね。
西山:異なる分野の知識を持っているがゆえに見えてくるソリューションの提案があるんですね。日本の良さにインド人材のそういう部分を掛け合わせると、違った問題解決ができるのかもしれませんね。実際にインド人材を雇用されてみて、どんな変化がありましたか。
高野:良い意味で、経営計画を変えることがあります。元々自分達が計画していたプロジェクトで必要なもの以上の能力を持っていたので、その子のために新しいプロジェクトを立ち上げました。研究開発をやってもらっています。能力がいろいろあるので、なるべくやりたいことができるポジションにつかせてあげたいと思っています。
彼ら、彼女らは、日本人とはモチベーションの源泉が少し違います。日本人のプログラマーは、「この言語はニーズが高まるだろうから覚えよう」と習得していく人が多い印象があります。インド人にもその気持ちはあるでしょうか、それ以上に本気でものづくりが好き。プログラミングが好きで、何か自分で作ってみたいという気持ちがある。なので、好きなことができる環境を与えてあげれば自分でアクセルを踏みますね。
西山:内発的なモチベーションが成果に繋がるんですね。そういう環境を与えるのも難しいのではないでしょうか。
高野:組織が大きくないので、柔軟に対応しやすいところはあると思います。元々、私たちの会社は協力しあってお互いの夢を叶えようというコンセプトで作っています。派閥や足の引っ張り合いがないので、やりやすいのではないかと思いますね。
加えて、インド人材を採用することで、一緒に採用した日本人にも刺激になっています。例えば新卒で入ってくれた東大の院を出た学生は、自分に自信がありました。でもそういう学生が、IITの学生をみて天才だと言う。よく、東大生をとって最初にやらなければならない仕事は、鼻っ柱をへし折ることだと言われます。そんなことをしなくても、世界には優秀な子たちがたくさんいるんだということを、一緒に働く中で感じられるのです。自分が一番優秀だと思う環境にいるのと、負けてられないぞと切磋琢磨できる環境にいるのでは全く違いますから。なので、IIT卒の学生たちと働きたいと応募してくる日本の学生もいます。
西山:IITの卒業生が働く日本企業は多くないですから、一緒に働きたいと思う日本の若手や学生は多いかもしれませんね。そもそもIITは、大学側が決める独自の採用システムがあり、採用したくても学生に選んでもらうのが難しい状況があります。 DG TAKANOが選ばれる理由はなんでしょうか。
高野:戦略がはまっていると思います。種明かしをすると、ITエンジニアは欧米の人気企業に持っていかれやすいんですよ。しかし、ものづくり系のエンジニアは日本企業にリスペクトがあります。インドはITは強いけれど、ものづくりは日本の方が強い。そのため、ものづくり系のエンジニアの採用を強化しています。
加えて、デザイン会社だということが刺さっていると思います。一般的なものづくり企業に就職すると、その企業の技術を使ったものしか作れません。ハンドルだったりタイヤだったり、作るものが決まっていますよね。でもDG TAKANOは、日本では珍しいデザイン会社です。デザインというと、外見のフォルムをイメージする人が多いですが、デザインの本当の意味は「設計」です。どんな課題をどう解決するのか考えるのがデザインです。
私たちは、どんな課題をどう解決したいのか考えて、それに必要な技術を集めます。製品は部品の集合体。その部品は、日本の尖った技術を持った中小企業が持っています。やりたいことをデザインしたら、日本中の技術を使ってそれをつくれる。そんなふうに伝えています。
西山:ありがとうございます。ものづくり×デジタルは、日本の魅力が出せる大きなポイントですね。複数の分野を学んでいることも、デザインに生きてくる感じがします。
西山:海外人材の採用には、言語が壁になるというお話も聞きます。高野さんは英語が得意ではないとお聞きしましたが、コミュニケーションはどうしてきたのですか。
高野:私は、言語の壁はそんなに高くないと思っています。今は簡単に翻訳できるツールも増えてきていますよね。それよりも一番大事なのは、仕事への前向きさややる気だと考えています。やる気のない人をやる気にさせるのは難しいですよ。それよりも、やる気があってコミュニケーションが難しい人とコミュニケーションを取ることの方が簡単だと思います。
それに、仕事の内容が小説を書くことだったら難しいと思いますが、ものづくりの現場においてはさほど大変でもありません。図面を見たり、プログラミングを書いたりしながら話せるからすごく楽ですね。絵を書きながら話したら通じることも多いです。
加えて言語の壁と言っても、IITの卒業生なんかは優秀なので、1年後には日本語がペラペラになっていますよ。
西山:なるほど。彼らの方が日本語も話せるようになるんですね。ちなみに、IITの卒業生の定着率はどうですか。
高野:IITだから定着率が低いという印象はありません。今は日本人でも3年くらいで転職していく時代です。これから終身雇用に戻るとも考えにくいでしょう。その中を生き抜いていけるような体制に、会社側が変わっていかなければならないと考えています。やめない社員がいることに胡坐をかくのではなく、遅かれ早かれみんな組織を出ていく。残ってくれたらラッキーくらいの心境で、今から早めに3年で稼げる仕組みを作らなければいけないと思います。
西山:3年は目安ですか?
高野:そうですね。うちは夢を追うために成長することを推奨しているので、それくらいで独立する人もいます。以前デリー大学を出たプラズマ研究者の女性社員を雇っていたときは、うちの環境に影響を受けてイーロン・マスクなどの本を読むようになり、インドで起業しました。独立したり違う会社に行ったりしても、違う契約で繋がれば良いだけだと考えています。彼女はインドで環境問題に取り組んでいるので、我々が助けられるところは助けています。
西山:独立した方とも繋がりを持っているんですね。卒業した方をみて、また優秀な方がDG TAKANOに夢を持って入ってくるかもしれません。ロールモデルは重要ですね。
最後に、海外人材の採用を考えている方に一言、メッセージをお願いします。
高野:これからは、海外人材の採用は必須の時代になってきます。じゃあいつ始めるのか。早く始めた方が絶対有利だと思うんですね。海外人材を採用し、マネジメントしていこうとすれば、宗教や文化の違いなど、日本人採用とは違う問題が出てきます。それをどう解決するか。みんなが通る道だからこそ、自社なりに解決策を考え実行することが重要です。先駆者になることで、結果的に自社に有利になると考えています。